海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち

おかあさん宇宙飛行士

 日本で2人目の女性宇宙飛行士・角野直子(すみのなおこ)さんは、2006年以降の、国際宇宙ステーションへの乗り組みを目指して、連日訓練を続けている。しかも一歳に満たない女の子の育児をしながら取り組んでいる。母親の宇宙飛行士は、日本では初めてということになる。
 ことし3月までは、育児休職を取っていた。4月から、現場に完全復帰した。早起きして保育園に送って行き、訓練を終えて迎えに行くのは、午後7時半頃になる。さぞかし両立が大変では?と水を向けると、「腕にだっこ筋がつきました。子育ても訓練のうちですよ」とこともなげだ。

 もともとアメリカでは、訓練と子育ての両立をしている女性は、珍しくない。NASA(アメリカ航空宇宙局)には、女性飛行士が40人ほどいるが、そのうち十数人が、出産を経験している。NASAには託児所もある。
 角野さんも、基礎訓練が終わった段階で、「産むなら今しかない!」と思った。母親になりたいという強い思いがあった。もちろん夫や、まわりの人々の協力があってなし得ることだ。「育児も、訓練も、長期戦。ペース配分が大切」という。
 角野さんは、1970年生まれ。幼稚園の頃は、北海道・札幌にいた。そこで綺麗な星空を見たのが、最初に抱いた憧れだ。そして、『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』を見ながら、子ども心に、いつか宇宙にと思っていた。小学校の理科の授業で、星の成分は人と同じ(酸素・水素・窒素)と聞いて感動した。宇宙に行くのも、兄弟を訪ねることのように自然なことだと感じた。
 中学3年生の時、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故が起きた。そのニュース映像を見ながら、宇宙から授業をするはずだったクリスタ・マコーリフさんの遺志を継ぎたいと思った。もともと学校の教師になりたかったので、宇宙と教師の夢がつながると実感したのだ。
 東京大学で、航空宇宙工学を学び、1996年、宇宙開発事業団へ就職。1999年、日本人宇宙飛行士の候補者となり、基礎訓練が始まった。そして、2001年9月、宇宙飛行士として正式に認定された。
 宇宙を目指している最中の今年2月、スペースシャトル・コロンビアの空中分解事故が起きた。事故後、休職中だったが、追悼式に出席した。冥福を祈り、悲しみを分かち合いたかった。「地球の未来のために可能性を切り開くという彼らの夢を引き継いでいきたい」と心に誓った。「国を越えて使命をともにした7人の死は、地球には国境線がなく、人命は等しく大切だと教えてくれている」

宇宙から伝えたいこと

 宇宙飛行士の基礎訓練は、地球観測のような座学、英語・ロシア語の語学、操縦・ロボットアーム操作やサバイバル訓練など、多岐にわたる。なかでも、ロシアでのサバイバル訓練は、思い出深い。氷点下30度の雪上で、斧で木を伐採し、テントで風をしのぎながら、3日間、救助を待つ訓練に取り組んだ。
 時折、NASAにも出向くが、基礎訓練のほとんどは、日本国内で行っている。国際宇宙ステーションは、世界15カ国の共同プロジェクトだから、各国独自のカリキュラムで、訓練が行えるようになったのだ。いわば、角野さんは、日本で育った初めての宇宙飛行士ということになる。

 ゆくゆく、角野さんは、≪国際宇宙ステーション≫のために日本が作った実験棟『きぼう』での長期滞在をすることになる。長いと6ヶ月の滞在になる。船外活動や様々な実験をすることになるが、宇宙授業もしたいと考えている。
 森林伐採、火山噴火、紛争は、宇宙からよく見える。そんな映像を送り、子どもたちに、平和や環境を守る大切さを訴えたい。トマトやキュウリなども種から栽培してみたい。動物も飼育して、日々の変化を伝えたい。宇宙から、子どもたちに発信したいことは山のようにある。

 角野さんは、「宇宙は身近だ」と語る。「8分30秒後、そこは宇宙」なのだそうだ。打ち上げ後、8分30秒で宇宙空間に着くのだそうだ。そう聞くと、いかにも宇宙は近いと思える。
 宇宙は、自分の考えが絶対でないと気づかせてくれるところだという。宇宙は、常識を崩す。ドアノブを回そうとすると、自分が回る。上下左右も、自分の姿勢次第で変わる。宇宙から地球を客観的に見る人が増えれば、地球の可能性は広がるはずだ。大地も、私たち一人一人も、宇宙の一部だということに気づくはずだ。角野さんは、少しでも多くの人に、宇宙に関心を持ってもらうことも、自分の務めだと思っている。

 角野さんが宇宙空間に旅立つ頃、一人娘の優希ちゃんは、幼稚園に入っているはずだ。スペースシャトルは、地球からも一等星の明るさなので、肉眼で確認できる。夕方の空を見上げて、「あそこにママがいると思ってくれたら嬉しいな」と想像を膨らませている。
 「子どもを生み育てたことで知った命の重み、生命の不思議を宇宙から伝えたい」とも思っている。

■村上信夫プロフィール
1953年、京都生まれ
明治学院大学卒業後、1977年 、NHK入局。富山・山口・名古屋・東京・大阪に勤務。
2001年6月より東京ラジオセンター勤務。「きょうも元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)担当。
これまで「おはよう日本」「ニュース7」「BS将棋中継」などを担当。
名古屋時代、「お母さんの勉強室」「育児カレンダー」を担当。以来、教育や育児に関する問題に関心を寄せている。
父親たちの社会活動グループ「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋、ピアノ。
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画とは
「日本画の一つ、俳味のある酒脱な略筆の淡彩もしくは墨絵で賛などしたものが多い」
(広辞苑)