海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 元気とは何ぞや

 その日の気圧がどのくらいになるのか気をもんだ。ゲストを招く日の気圧を心配したのは、初めてのことだ。何しろ、その人は、低気圧が接近すると、たちまち偏頭痛が起きるという。台風でも来ようものならアウトだと思っていたら、その日は、高気庄におおわれた晴天だったせいか上機嫌だった。
 気圧の変化に敏感な作家の五木寛之さんは、いま≪元気≫について、一生懸命考えている。そういえば、元気にも「気」の字が入っている。
 究極のマイナス思考で、悲観論の家元のように思われていた五木さんが、≪元気≫というタイトルの本を書いたところ、案の定、五木さんらしくないタイトルと揶揄された。

 五木さんを執筆に駆り立てたのは、妙に元気のなくなった時代状況だった。終戦後のどん底の中でも、人々にエネルギーはあった。戦争孤児も元気だった。ところが現在、周囲を見渡してみても、元気のない顔ばかりだ。いったい日本はどうしてしまったのか、元気とはそもそも何なのか、ずっと気になっていた。元気な日本人を回復したいという願望のもと、≪元気≫について様々な思いを巡らせ、筆を取った。
 「元」とは、おおもと、一番重要なもの。「気」とは、エネルギー。すなわち≪元気≫とは、宇宙のすべてのものの根元のエネルギーということになる。
 五木さんは、「死を考え、死と向き合うことで、元気に死のう!」と呼びかる。死を恐れることはない。脅えることはない。死を遠ざけることは、生を遠ざけることになる。
 五木さん自身、常に死を意識してきた。「早死にするに違いない」と思っていた。母が41歳、父が56歳、弟は1歳と42歳で、それぞれ病死した。そんな中で、自分だけが長生きするわけがないと思っていた。子どものころから腺病質で、虚弱体質。扁桃腺、中耳炎、備頭痛、風邪…病気のオンパレードだった。
 仏教の考え方では、もともと人は、生まれながらにして四百四の病を抱えているとされる。病気は無から出てくるのではなく、その人の状態変化の中で、出たり引っ込んだりするものだというのだ。「考えてみれば、人生は死に向かう旅。病気を治すというより、病気をなるべく表に出さないように、折り合って生きていけばいいのではないか」と五木さんは思っている。

 暗愁とは何ぞや

 五木さんは、講演を依頼されるたびに、そのタイトルを「暗愁のゆくえ」としてきた。講演担当者は、戸惑う人も多かったにちがいない。日本一暗い話をする作家と思われていた節もある。それが最近では、「あの暗礁に乗り上げて…の話を」と錯覚されながらも、リクエストされるようになってきた。
 ≪暗愁≫とは、なんともいえない心の中に横たわっている根元的な愁い。ことばにならない感情に見舞われ、ふさぎの虫が活発に動きだし、心萎える瞬間のことを言う。
 「暗」とは、暗いではなく、どこからともなくやってくる、なぜということもなく現れるという意味だ。
 暗愁を心に抱くということは大切なことだ。「むしろ、しなやかな心を持っている証拠だ」と五木さんは言う。こんな例え話をしてくれた。「日本海側の雪は湿気があるから重い。堅くて強い木は、重い雪で折れてしまうから、雪吊りが必要だ。弾力性のある柳や竹には必要ない。雪が積もっても、自然にしなって雪を払いのけてしまう。このしなっている瞬間が暗愁なのだ。重い人生の雪を、自然に振り払い、元に戻そうとしている状態に通じる。暗愁が訪れたとさは、心がしなっているのだ」

 明治のころは、驚くほど広く使われていたが、五木さんによると、1945年に、永井荷風が使ったのを最後に、消えたという。戦後は、必死で暗愁を隠して、辛くとも作り笑顔で乗り越えるのを是とする風潮があった。暗愁を抱くのはいいことではないと、ひたすら隠してきたから、自殺者が3万人突破という事態を招いたと、五木さんは憂える。
 このふさぎ虫に対しては、知らん顔するより仲良くしたほうがいい。まっすぐ向き合い、対話する。人間は、自分の中に《暗愁》を抱えて生きているものだと思えばいい。因ったものではなく、人生の真実の姿、不条理を感じさせてくれる大事なシグナルと思えばいい。暗愁を感じたら、腹の底から大きな深いため息をつけば、元気が湧いてくる。

 喜びノートと悲しみノート

 五木さんは、40代後半から、50代にさしかかるとき、更年期ともおぼしき、うつ状悪になった。トンネルから抜け出すために、≪喜びノート≫をつけ始めた。1日に1つずつ、なんでもいいから嬉しかったこと、楽しかったことを書いていった。「ネクタイが一気に結べた」「新幹線の窓際の席が取れて、富士山がよく見えた」 
 その後、≪悲しみノート≫をつけ始めた。このノートには、心の底から悲しかったことを書いていく。あまりに連発する殺伐とした事件や、呆然とする出来事に、悲しむことすら、置さ忘れてしまう。こんなときこそ、「悲しい感情に慣れっこにならないために、深く悲しむことも必要と考えたから」ノートをつけ始めた。
 腹の底から笑うことも、心の底から泣くことも、どちらも大切なことなのだ。言い方を変えれば、絶望の暗さを知っている人こそ、希望を光明と感じられる。人生は、晴れのち雨、また雨のち晴れの繰り返しだ。明るさや元気だけでなく、暗愁とも仲良くしていくことが、元気で生さる力にもなる。

■村上信夫プロフィール
1953年、京都生まれ
明治学院大学卒業後、1977年 、NHK入局。富山・山口・名古屋・東京・大阪に勤務。
2001年6月より東京ラジオセンター勤務。「きょうも元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)担当。
これまで「おはよう日本」「ニュース7」「BS将棋中継」などを担当。
名古屋時代、「お母さんの勉強室」「育児カレンダー」を担当。以来、教育や育児に関する問題に関心を寄せている。
父親たちの社会活動グループ「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋、ピアノ。
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画とは
「日本画の一つ、俳味のある酒脱な略筆の淡彩もしくは墨絵で賛などしたものが多い」
(広辞苑)

イネ・セイミ

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