海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 シャンソン歌手の石井好子さんは、歌手生活60周年を迎えた。
昭和20年9月末。終戦から、わずか1ヶ月後のことだ。石井さんは、進駐軍の前で歌った。進駐軍第1号歌手といわれる。ジャズバンドにポーカリストがいなかったので誘われたのだ。
 みんな音楽に飢えていたのだろう。ついこのまえまで敵味方に別れて戦っていたことなど忘れて、音楽に興じた。母の黒紋付きの羽織りを、イブニングドレスに仕立て直して、舞台に立った。そのとき歌ったのは、ジャズナンバー『ドリーム』。「心が沈みがちなとき 夢をみましょう世の中は思い悩むほど悪くないのだから さあ、夢を見ましょう」 まだ夢を見るより現実が先という戦後の混乱期だったが、歌手としての夢の幕開けだったといえる。

 石井さんの一筋道

 ステージに立つ姿は、83歳という年齢をまったく感じさせない。背筋もピンと張り、声にも張りがある。
 元気の源は、女学校時代にあるようだ。石井さんが通った府立第六高女(現・三田高)は、運動がかなり盛んな学校だった。運動の時間になると、鏡張りの体育館で、音楽に合わせて歩いた。春と秋の2回、多摩川ベりを、最長で10里歩く催しがあった。女学校の時によく歩いたから、いまも元気でいられるのだという。
 女学校には、当時としては珍しく、温水の25メートルプールもあった。夏も冬も泳げた。1987年、マスターズ台湾大会に出場。平泳ぎ50メートルで見事優勝した。
 80代なのに、すべて自分の歯だというのには驚く。ワインのコルクを口に挟んで声を出す独特の方法で、声帯も鍛えている。このほかにも、石井式ストレッチ体操、室内ウォーキングマシン、野菜を中心にした食事…、「自分のことは、自分で面倒見なくちゃ」と、意気軒高である。

 大正11(1922)年8月4日、東京・神田に生まれた。6歳からピアノを習ったが、面倒臭くて好きになれなかった。でも歌は好きだった。「歌うたいになる!」と宣言。ピアノを教えていた岡本玉子先生が、無理強いせず、歌を誉めてくれたから今がある。
 東京芸大の前身の東京音楽学校・声楽専科に入学。音楽学校時代、友人の家で、シャンソンを初めて聞いた。『聞かせてよ 愛の言葉を』という曲が心に染みこんだ。この世にこんな美しい歌があったのかと驚いた。
 ドイツ歌曲の歌手を目指していたが、戦争によって音楽の道を変えられたといっていい。戦後、ジャズ歌手としてデビューしたあと、アメリカに渡り、歌に磨きをかけた。それからフランスに渡り、昭和27年、パリでシャンソン歌手としてデビューしたのだった。
 帰国後は、シャンソンを広めるために歌い続けたが、若手のシャンソン歌手を育てることにも尽力した。石井さんが企画して始めたシャンソン歌手が一同に集う「パリ祭」は、昭和38年以来続いている。
 平成2(1990)年には、パリ・オランピア劇場で、日本人として初めてのリサイタルを成功させた。この成果が認められ、フランス芸術文化勲章《コマンドール章》を受賞している。

 

無心になれた瞬間

 紆余曲折、波瀾万丈の人生を送ってきた石井さんにとって、節目になる出来事はいっぱいある。中でも、昭和55年10月6日、35周年リサイタルの時は、歌手としての最も大きな節目になった。その日、父も夫も病床にいた。父は危篤状態、夫もリサイタル前日に意識不明状態に陥った。
 そんな中で、『モンデュー』という曲を歌った。「神よ、神よ、神よ。もうしばらく、彼を取り上げないで下さい。神様、もうしばらくの間、彼と一緒の時を与えて下さい」 父のことも夫のことも意識したら、悲しすぎて歌えない歌詞だ。何も考えずに、文字通りモンデュー(神様)にすべてを委ねて歌った。神のカなのか、不思議な力が、無心で歌わせてくれた。
 石井さんの辛い状況を知らないはずなのに、楽屋に来た人が、みんな泣いていた。皮肉なことに、身も心もズタズタになったとき、歌手として、ひと皮むけた気がした。
 「57歳にして、自分の歌が、初めて人の心に届くようになった」と石井さんも感涙した。そして「このあとから、もっと聴きたいと熱のこもった本物の拍手がもらえるようになった気がする」と述懐する。「拍手が同情に変わったら、第一線から身を引くつもりよ」とも付け加える。

 秋に開いた60周年記念リサイタルのタイトルは、『さよならは云わない』。さよならを言う日が近いことはわかっている。だが、かなうことなら、少しでも先に延ばしたい。
 昨日よりは今日、今日よりは明日と、少しでもうまく歌いたいと思っているうちに、60年たってしまった。まだまだ上達したい。そんな思いが、このタイトルにつながった。

■村上信夫プロフィール
1953年、京都生まれ
明治学院大学卒業後、1977年 、NHK入局。富山・山口・名古屋・東京・大阪に勤務。
2001年6月より東京ラジオセンター勤務。「きょうも元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)担当。
これまで「おはよう日本」「ニュース7」「BS将棋中継」などを担当。
名古屋時代、「お母さんの勉強室」「育児カレンダー」を担当。以来、教育や育児に関する問題に関心を寄せている。
父親たちの社会活動グループ「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋、ピアノ。
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第4金曜日 午前10時15分〜
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