海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

三代目の遠回り
 「金田一」と言えば、たいていの人はピンと来る。日本語の世界では、すっかりブランドとなっている「金田一」。アイヌの言葉の研究で知られる金田一京助、敬語や方言に詳しい金田一春彦、もちろんこうした特定分野だけでなく、二人とも日本語辞書の編纂や日本語研究の第一人者として知られている。
 京助を祖父に、春彦を父にもつ「金田一」家の三代目が、金田一秀穂さんだ。かつて秀穂さんは、何より三代目と言われることが、嫌で嫌でしかたなかった。金田一ブランドが重荷だった。
 「きっと国語や作文出来るんでしょうね」「今のうちにサインもらっておこうかな」そんなたわいない言葉が、金田一少年の心を傷つけた。
 兄が「国語苦手宣言」をして、早々と理系に進路を決めた。ゆえに、秀穂さんへの「三代目待望論」が家族内で強まった。父は、表立って何も言わなかったが、母がことあるごとに「お前は後を継がねばならないんだよ」と言ってきた。

 秀穂さんは、都立高校に入ると、家族から離れたくて、姉が住んでいた旧・京助邸に脱出する。生きる支えを見つけようと読書に没頭する。完璧な自由を手に入れる答えが、心理学にあるのではないかと思い、上智大学心理学科に進む。
 しかし、なかなか答えは見つからなかった。大学を卒業後、就職もせず、パチンコで生活費を捻出する日々が続く。生産的なことを何もしない日々に、絶望感ばかりが募っていく。3年ほど、そんな生活を続けた。長い遠回りだった。

心地よい日本語
 外国に行こうと思い立った。それならと、日本語教師を薦めたのは、父だった。秀穂さんは、「ニート状態から立ち直れたのも、金田一家に生まれて来た運があったからだ」と振り返る。
 日本語教師養成講座で勉強して、中国などアジア各国やアメリカなどで日本語を教えた。日本語教育をしながら、各国の文化を目の当たりにして、文化人類学のフィールドワークが出来るのが楽しかった。そして帰国後、杏林大学日本語学科に就職し、現在は教授を務めている。おりからの日本語ブームも手伝い、テレビのことばバラエティー番組などにひっぱりだこの人気だ。
 秀穂さんは、ことあるごとに《心地よい日本語》という考え方を推賞している。ことばの最も大事な働きは、人と人をつなぎ合わせること。そのためには、ことばの正しさ美しさは、あまり関係ない。その場にふさわしいことば使い、心地よい日本語を話すことが大事だと説くのである。自分の気持ちにぴったりあったことばを使うのがいい。借り物のことばではなく、実感を伴ったことばを口にすればいい。本来正しくない敬語を使ったとしても、ことばの言い方や態度ひとつで、敬意は伝わる。何も目くじら立てる必要はないのである。

再び金田一家のお話
 金田一家の伝統的雰囲気とでもいうのか、こだわりのなさは三代に共通している。権威や伝統にとらわれずに新しいことをやっていた。秀穂さんの日本語に対する柔軟な考え方も、祖父ゆずり父ゆずりなのである。
 三代をひとことで特徴づけてみてほしいと頼んでみた。返ってきた答えはこうであった。祖父・金田一京助は、「情の深い人」。父・金田一春彦は、「世俗的な人」。そして自身については、「いいかげんな人」と自己分析する。融通無碍を理想としている。
 秀穂さんには、今もって三代目という自覚がない。「祖父や父は、ことばの実体を追究してきたが、僕は、ことばを発する人間の心理状態に関心がある」
 四代目のことについても聞いたみた。演劇を勉強中の長男は、当然ことばに関心を示しているが、秀穂さんは、積極的に四代目になってほしいとは思っていない。親としては、待っているしかない。父がそうしてくれたように。

 秀穂さんは、泣き虫だ。成人式の娘の晴れ姿に感動して号泣する。教え子の結婚式で、両親への花束贈呈でもらい泣きする。3人兄姉のトークセッションで、父の話をしようとして、声を詰まらせた。
 父が亡くなる二日前、秀穂さんが出ていたNHKの番組を一緒に見ていた。番組が終わると、ニコニコして「よく出来たね」と手を叩いて喜んでくれた。それが秀穂さんが聞いた最後の父の一言だった。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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1,400円(税別)
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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