海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 京都がお気に入り
 宗教学者の山折哲雄さんは、長年にわたって、日本人の精神構造や文化風土と向き合いながら、日本人の心のありようを考えてきた。
 一か所に定住せず、引っ越しも十数回重ねてきたが、京都が気に入り、すでに18年住んでいる。
 京都の四条通り界隈を、作務衣に下駄履き姿で散歩するのが日課になっている。「散歩は下駄に限る。音をたてながら歩く爽快感がいい。底が偏平でない心地よさがある」

 行き交うおばあさんに、「ええかっこしてはるなぁ」と声をかけられる。路地裏にある祠には、掃き清められた花が供えられ、信心深い土地柄を感じさせる。味のある小さな喫茶店のテーブルは、黒光りするほど磨きこまれている。そんな光景に目を細めながら散歩するのが楽しい。歩いているうちに歴史散歩になる。本能寺の跡地にたたずみ、兵たちの夢の跡に思いを馳せる。西洞院あたりは、道元と親鸞ゆかりの場所が近い。ひょっとすると二人は行き交っていたかもしれないと想像するのも楽しい。

 歩く、泣く、寝る
 山折さんは、昭和6(1931)年、アメリカ・サンフランシスコの生まれ。父が浄土真宗の海外布教の役割を担って彼の地にいたのだ。ちなみに、山折さんも、浄土真宗の僧侶の資格を持っている。
 昭和12年に帰国後、東京でしばらく暮らした後、昭和18年、母の実家の寺のある岩手県の花巻に疎開した。山折さんにとって、ふるさとといえば花巻になる。ここで、石川啄木、斎藤茂吉、宮沢賢治たちの影響を受けた。荒々しい東北の風土を象徴する童話や詩に親しみを覚える。
 東北大学で、インド哲学を学んだあと、大学助手や、編集の仕事をしていたが、勤めをやめ浪人生活をしていたことがある。生来の短気で、勤め先に長くとどまる定住型ではなかったのだ。鬱屈した気持ちを持て余し、よく散歩に出た。この散歩は優雅なものではなかった。大雨や強風の日にも、あえて散歩に出た。歩いているうちに涙が止まらなくなった。それも声を上げての号泣だ。「涙は、宝石のような結晶だと思う。涙には浄化作用があり、人に勇気を与える」
 泣き終わって、家に帰り、酒を飲んで寝る。そうして、翌朝には憂さが晴れている。そんな日々を送っていた。歩く、泣く、寝るの3原則は、沈滞する自己意識を吹き払うために身につけた知恵だったのだ。
 山折さんは、哀しみの感情は、喜怒哀楽の中で最も大切だと考えている。哀しみを心にじっくり溜め、物思いにふける中で、感情や感性が醸し出されていく。
 美空ひばりをこよなく愛している。公演にも、よく足を運んだ。ひばりは「哀しみに共感、哀しみを共有出来る存在。そして、感情を浄化してくれる存在」だった。
 

 働き詰めの男たちが空虚な気持ちを抱えて、勤め帰りに立ち寄った酒場で一人聞く「悲しい酒」。胃の腑に酒が染みるように、人の心に染み入るような歌い方で、男たちに寄り添ってくれた。人の苦しみ哀しみに深く共鳴する感性を持った歌い手だった。

 天地万物生命教
 これまでの入院経験は、10回に及ぶ。病気とのつきあいは長い。20代、30代と2度にわたって十二指腸かいようを患った。40代になって、ヘルペスウイルスによる疼痛に悩まされ、失明の危機に陥ったこともある。60代で急性膵炎になり、膵臓ガンと誤診された。そして70代、変形性頚椎症で、右手がしびれ首が曲がらなくなった。
 こうした体験の数々が、身体論的な宗教研究の契機になり、自分の体も学問の対象になると知った。「病気は、肉体を衰えさせるが、精神を研ぎ澄ましていく。病気が研究者としての私の道を切り開いてくれたかもしれない。病気を通して人間を客観視出来るようになった」肉体と精神のパラドックス(逆説)が、ライフテーマになった。
 そして75年間の人生で、今がいちばん健康だというが、命への思いは、ひときわ強い。

 人間には、文化や伝統に根差した「心の遺伝子」が備わっていると、山折さんは考える。その遺伝子を活性化させるのは、難しいことではない。日常生活を大切にすればいいのだ。姿勢を正せば、きちんとした挨拶が出来る。深い呼吸を整えれば激論にならない。微笑みを忘れなければ、優しい言葉のやりとりになる。
 殺伐とした時代だ。いま一度心を見つめ直し、確かめていく必要がある。すべてのものに心があり、命があるという感情を呼び覚ます必要がある。「もう教祖や教義はいらない」と、宗教学者の山折さんは断言する。これからの時代に求められるのは《天地万物生命教》、天地万物に命があるということを布教する必要がある。太陽や月に感謝し、草木の成長に心を喜ばせ、動物たちと共存する。自然と一体化してこそ、人間は幸福になれる。

 常に病気と付き合ってきた山折さんは、《死後の三無主義》を唱えている。墓は作らない、葬式はしない、戒名はつけない。そして、一握り散骨を実践したいと考えている。夫婦のうち残ったほうが、故人ゆかりの場所を訪ね歩いて、一握りずつ骨を撒いてくる。賢治さながら「宇宙の微塵に我が身を返したい」のだそうだ。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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