海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 山形県鶴岡市に予約が取りにくいイタリア料理店がある。民放のテレビ番組で取り上げられて以来、全国から食通が訪れる。地元庄内産の食材にこだわった料理を提供している。お皿に乗った料理の数々は、シェフの魔法によって、食材がみごとに生かされたものばかり。シェフの名を奥田政行という。
 店の名前は、《アル・ケッチャーノ》。イタリア語のように聞こえるが、「そこにあるんだね」という意味の庄内弁。奥田さんは言う。「いま自分があるのは、庄内の人々のおかげ。大切なものはそこにある。そんな思いを店名に込めた」
 奥田さんに初めて出会った人は、一様に「少年のようだ」という感慨を抱く。外見は、騎手の武豊さんに似た童顔をしている。むろん少年の心も持ち合わせている。「子どもに帰らないと、食材は話をしてくれない」

 目標通りの人生

 1969(昭和44)年、鶴岡市の生まれ。父も料理人だった。大阪で料理とお菓子を修行して、《10円ソフト》を開発して流行らせたこともある。
 父は、新潟県で、小さな飲食店を始め、やがて幹線道路沿いの海辺にもドライブインを開業した。奥田さんが小3の時だ。
 小学生の頃の奥田さんは、海辺でハンモックに揺られながら、世界地図を見ては、世界を旅する空想にふけるのが楽しみだった。
 食べることにも、人一倍関心があった。ドライブインで、父の作る定食が夕食だった。奥田さんの舌は、父の味をしっかりと記憶している。料理人の父を、いつもかっこいいと尊敬していた。
 高校時代は、バドミントン部のキャプテンだった。大学進学を考える頃、家業が傾きはじめ、進学を諦め、就職することにした。パソコン関係に就職しようと思っていたが、高校の先生に就職希望書を提出する30秒前に、直感が働き、料理店の名前に書き換えた。
 そして、東京・渋谷のレストランに就職。入社式で「25歳までに料理長になります」と宣言。常識では無理と思えるような目標を立てて周囲に宣言するのは、この後も奥田さんの真骨頂となる。言うだけではなく、それを見事に実現していくのだからすごい。
 その後、東京・新宿のステーキハウス、神奈川県藤沢市のフランス料理店で働いた後、1994年、ふるさと鶴岡へUターン。地元のホテルのレストランに勤め、翌年には、そのレストランの洋食料理長になる。宣言通りに実現したものの、料理長は包丁を握るより、事務処理の方が多く、居心地がよくなかった。
 「満足のいく料理を提供するには、生産者を育てる必要がある」と20代にして考えていた奥田さんは、1998年、農家の人達が立ちあげたレストランの料理長に転身する。地元の農産物を使ったイタリアンを提供する店だった。いまの店の前身のようなものだ。

 地産池消のレストラン

 そして、2000年、アル・ケッチャーノが開店。ついに自分の店を持った。これまた「30歳までに自分の店を持つ」という目標を、ほぼかなえた。
 開店当初は、客足が伸びず、農家の理解を得るのにも時間がかかった。「自分のやることに確信はあったが、迷いもあった」

 しかし、庄内の食材を自らの足で集め、それを生かす調理を心掛けるという信念は揺るがなかった。鮮魚店、自分の畑、産直の店、生産者のもと…足を棒にして、食材を集めながら、その日の献立を考えていく。野山に分け入ることもある。山菜やハーブを見つけると、土の汚れも気にせずに、すぐ口に入れて味を確かめてみる。どの素材に合うのか、香りを念頭に置いて考える。奥田さんの舌は格別敏感に出来ている。絶対味覚の持ち主ではなかろうか。
 献立は、その日に入ったものに応じて、毎日変わる。黒板に手書きした献立は、まるでその日だけの味のカタログのようだ。
 とにかく庄内は食材の宝庫だ。地産池消にはもってこいだ。海あり山あり。四季もはっきり。いろんな食材が新鮮な状態で手に入る。きめ細やかで、みずみずしく香りがいい。「庄内を《食の都》と認知されるように努力したい」と奥田さんは言う。

 求める味 求められる味

 「いま求められているのは、生命力あふれる食材を、最短距離で食べる人に提供することだ!」「僕が作るのは、《これまでにない香りの料理》。食材を食べた時、口の中に二番目に広がる香りと相性のいい食材を合わせると、香りがパワーアップする。僕の料理に、ソースはいらない」
 主材料を5とすると、副材料4、まとめの味付けが1の割合。これを奥田さんは、《キャンディーズの法則》と呼ぶ。キャンディーズのハーモニーは、ミキちゃんとランちゃんの歌をスーちゃんが引き立てる。3人一緒でも誰の声か聞き分けられる。「それぞれの食材の言いたいことがわかる味の比率」なのだと言う。「口に入れた時に、どんな食材が使われているかわかる料理にしたい」
 客に「奥田さんの料理には、藤沢周平の世界があるね」と言われたことがある。奥田さんは、意識して味付けを完成させない。食べる人に考える余地を与えたい。余白の美があると感じられるから、その客は、そういう表現をしたのだろう。

 奥田さんには、3人の息子さんがいる。長男が保育園の時、七夕の短冊に「世界一のレストランを作りたい」と書いた。長男が次男に、将来一緒にレストランをやろうと誘っているが、次男は野球選手になりたいと、今は断っているそうだ。「料理人にならなくても、人に喜んでもらえたら幸せと思える人間になってほしい」と奥田さんは、思っている。奥田さんは、みんなの幸せな顔を見るのが何より楽しみなのだから。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)
「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
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おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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