海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 兵庫県姫路市のジャズシンガー、石野見幸さんは、4年前、若い人に多いスキルス性胃ガンに罹り、手術をした。しかし、去年9月、再発がわかり、厳しい副作用に耐えながら抗ガン剤治療を続けていた。
 「ひどいときは、全身をはさみで切り刻まれるような痛み」に襲われる。そんな「痛み」と闘いながら、五線譜に向かい作曲を続け、ステージで歌い続ける彼女の「生きる姿勢」は、多くの人の共感を呼んでいた。
 東京の病院に、抗ガン剤治療のため入院中のところを、スタジオに来てもらった。彼女を哀しい物語の主人公にしたくなかった。ひととき病気のことを忘れて、明るい気持ちになってほしいと願っていた。

 病院に見舞いに行ったときは、ベッドから起き上がれず、かぼそい声で話していたのに、スタジオでの石野さんは、張りのある声で話し、重病の人には思えなかった。しかも、リスナーからの反応がかえってくるに連れて、しだいに表情も明るくなっていった。無理をして来てもらうことにためらいもあったが、つくづく来てもらってよかったと思った。

 痛みを忘れさせる歌
 石野さんは、小学生の頃から「痛み」と向き合ってきた。給食のパンを食べていて、何度も腹に激痛が来た。原因不明の痛みだった。痛みはなかなか人にわかってもらえない。学校も休みがちになり、あまり外で遊ぶことも出来なかった。
 中学3年の春、肝臓と十二指腸をつなぐ管が膨らむ《先天性胆管拡張症》と分かり入院した。入院先には重病を抱える子どもたちが大勢いた。「死ぬために生きているのではなく、今を生き抜くことの大切さを教わった」

 幼い頃から歌が大好きだった。神戸の児童合唱団にも入っていた。そして父の影響で、ジャズが好きになった。父のCDを聞いては、ジャズを口ずさむ大人びた少女だった。
 短大を出て、メイクアップアーティストの仕事につくが、傍ら、ジャズの勉強も続ける。そして、28歳でジャズ歌手としてデビューした。年間100回のステージをこなしたこともある。歌っていると、痛みも忘れ元気になれた。
 4年前、ガンが見つかったときも、父が歌い続けることを薦めてくれた。「今出来ることを精一杯するんだ」という父の言葉に奮い立たされた。
 去年のクリスマスには、初めてCDアルバムを出した。アルバムタイトルは《カレント》。「今」という意味だ。録音で歌声を残すことには積極的でなかったが、命を授けてくれた両親に、歌声を残すのは今しかないと思った。

 

 骨になった父のエネルギー
 その父が今年4月25日、突然脳卒中で亡くなった。
 そのときの気持ちを石野さんはホームページに、こう書いている。
 「私を世界で一番愛していた人がいなくなっちゃった。死ぬのが怖いと泣いてすがりつく私に『大丈夫や、お前一人で逝かせたりしない。お父ちゃんが一緒に逝ったる。心配するな。安心してどーんと生きろ』と抱き締めてくれた私の愛するととう(父)。周りの人には、『俺が先に逝ってあいつが迷わないようにしたるんや』と言っていたそうです。ととうは順番をまもってくれたのかも知れません。ととうは、人を愛することの素晴らしさや、人を区別や差別せず愛し合うことの大切さを態度で教えてくれた。私は世界で一番素敵なととうとおかたん(母)の子どもに生んでもらえたことを誇りに思いました」
 石野さんは、骨になった父がエネルギーをくれたとも話す。
 火葬場の人が「素晴らしい骨だ」と褒めてくれた。父に似た骨太が嫌だったが、しっかりした父の骨を改めて見て、堂々としていると思った。その父に負けないで生きなきゃと思った。「歌わなきゃ。父は私の体の中に生き続けてくれているんだから」

 今年7月16日、病身を押して、大阪のライブハウスのステージに立った。3時間のライブをこなした。22曲を歌い切った。病気を抱えている人、哀しみを抱えている人たちと、思いを共感し合いたいと歌ったが、自分も勇気づけられ、元気づけられた。
 ジャズを教わった師匠の一人に、ジャズ歌手の伊藤君子さんがいる。伊藤さんの歌った『フォローミー』は、全米チャートにも入り、ジャズの本場アメリカでも注目される実力派歌手だ。出会いは、神戸のジャズ教室だ。
 7月16日の大阪でのライブを伊藤さんは、2回とも見た。ベテランの伊藤さんも、石野さんの歌う姿を見て「健康な自分に甘えず、これが最後という気持ちで歌いたい。病を抱えながら、ユーモアを忘れないのも見上げたものだ」と思った。

 石野さんが寝る前に、必ず言う言葉がある。「ありがとう」。その一日に感謝して「ありがとう」と言っている。朝になっても目が覚めないと「ありがとう」と言えないかもしれないからと、はじめた習慣だ。
 石野見幸さんは、11月8日午後3時に亡くなった。生き切った。
 石野さんが最後にホームページに書き込んだ言葉も「ありがとう」だった。「みんな、愛しています。そして愛してくれてありがとう」
 見幸さんのこと、いつまでも忘れないよ。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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