海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 土を踏み、風に祈りつつ歩く四国遍路。自分探しの若い人、定年退職を迎えた団塊世代、病を抱えたお年寄り…いま、多くの人が四国を歩いている。そのお遍路旅を3度達成した一人のジャーナリストがいる。
 朝日新聞のニューヨーク特派員や論説委員を経験し、《天声人語》をのべ13年にも渡って執筆していた辰濃和男さんだ。朝日新聞退社後も、ジャーナリストとして健筆を奮っている。そして、歩くという行為も大切にしている。
 四国一周、88ヶ所の霊場を回る距離は千数百キロに及ぶ。それを3回歩き通したのだ。「歩き通すと顔つきが変わってくる。爽やかな顔になっていく。だが東京に帰ると、一週間でもとに戻ってしまう。妻からは、もう一回行ってきたらと言われる」と、苦笑しながら語るが、その顔は満ち足りたように見える。

3度の遍路旅
 1930(昭和5)年、東京・深川の生まれ。5人兄弟の末っ子だった。3歳で世田谷に引っ越した。田畑や森がたくさんあった。あたりをかけずり回っていた。チンドン屋について回るのが好きだった。ついて行くと、何かいいことがあるような気がしていた。歩くのが苦にならなかった。
 文章を書くのも好きだった。読書も好きだった。いずれは、もの書きになりたかった。思いがかなって、新聞記者になった。
 遍路旅に最初に出たのは、40代。遍路旅では重病の人、自殺を望む人、罪を犯した人…いろんな境遇の人に出会う。そういう人々の信仰を知らずに、日本が書けるかと思った。「違う人生を抱えた人を包み込む遍路道の懐の深さ」を書きたいと思った。
 しかし、記事を書くために歩いたという後ろめたさがあり、定年退職後、もう一度歩こうと思っていた。

 3回の遍路旅、それぞれの出会いがあった。1回目( 44歳)は、人との出会い。2回目( 68.70歳)は、自分との出会い。そして、3回目( 73.75歳)は、自然との出会い。
 回を重ねるたびに、体力は落ちて、歩くペースも遅くなったが、何物にも束縛されない歩き方が出来るようになった。歩きながら、風の音が聞こえてくるようになった。その音を聞きながら歩くと、大自然の営みに感謝する心が芽生えてくる。
 人間は特別な存在ではないと気づく。「祈り」と「感謝」の存在が大きくなっていく。とどのつまりお遍路とは、「土を踏む」「風に祈る」ということだ。土を踏んで歩き、ただただ宇宙の営みにぬかずき、黙って歩き、黙って祈る。
 そうすると、どんなことも「ヨカッタヨカッタ。セイカイ。ダイセイカイ。」と楽天的に思えてくる。辰濃さんの文章には、よくカタカナ表現が登場する。率直な思いを、やや照れながら語る、そんな気持ちがカタカナに表れているような気がする。

接待という文化
 四国遍路には《接待》という優れた文化がある。遍路の人を接待すれば御利益があるという信仰だ。路銀のたしに百円玉を渡してくれる。ミカンをくれる。ゆで卵を分けてくれる。疲れた足を見かねて、車に乗せてくれる。
 接待を受けると、支えられて歩くことに対する感謝の念が沸く。情けが力をくれる。若者も感激する。《支える》《助ける》《励ます》について思いを深めることになる。生きる上で、一番単純で大切なことに気づかせてくれる。そして、新たな境地を抱いて、遍路旅が終わるころ、晴れやかな顔になって、四国を後にする。ひきこもりやうつから脱け出したくて歩いている人、死ぬ覚悟で歩いている人を、四国の人たちが救っているとも言えるのだ。「蘇りのシステムとして、すごい文化だと思う」

 《接待》の波及効果は、いろいろある。
 数々の接待を深く心に留め、「ありがとう」と本気で思える瞬間を数多く持ちたいと思えるようになる。「ありがとうの心を持ち続けることは極楽人生を送る秘訣になる」。
 感謝の気持ちは、身の回りや愛用しているものに広がる。自然に接待返しの気持ちが沸いてくる。空や風や火や水や…自然への感謝も広がってくる。

新たな接待の広がり
 いま、お遍路さんたちが、旅の道すがら憩う場所《ヘンロ小屋》が、四国各地に次々、建てられている。徳島出身の建築家、歌一洋(いちよう)さんが設計している。辰濃さんは、ヘンロ小屋をつくる会の会長として、支援している。
 ヘンロをカタカナにしたのは、「新しい前向きな」ものにしたいかららしい。阿波踊りの笠、丸亀のうちわ、香我美の凧…その土地ゆかりのデザインを取り入れ、その土地の人の協力で作られている。いわば、《接待》を形にしたものと言える。
 たいていの小屋は、「ハの字」に柱が交差させてある。人が支え合う姿を表している。「いのちは、支え合ってこそ保たれる」という空海の教えを具現化してある。
 ほかにも、《カンカンラリー》と名づけた空き缶拾い、《お四国の道清掃隊》と銘打って、8月8日に遍路道のごみ拾いをする活動、遍路道の道しるべを設置する活動…、接待は、あちこちに息づいている。

 辰濃さんは、80代になったら、また遍路旅に出たいと考えている。
 遍路は、徳島から右回りが《順打ち》、逆回りが《逆打ち》、一気に歩くのを《通し打ち》、何回かに分けて歩くのを《区切り打ち》という。辰濃さんは、そういうしきたりから解放された《乱れ打ち》をしたい。「遍路道でないところも自由に歩き、心に響く寺があれば、しばし滞在して修行させてもらいたい」。
 辰濃さんは、88歳の88ヶ所巡りもいいかもしれないと思っている。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

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