海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

紀元前の寺田さん

 千葉県の神崎町(こうざきまち)にある創業340年の老舗の造り酒屋・寺田本家の23代目、寺田啓佐(けいすけ)さん。寺田さんが心がけているのは、戦前に存在したような「百薬の長」としての酒造りだ。
 戦後、ほとんどの酒屋が、添加物だらけの即席の酒造りに転じてしまった。原価を安くして、大量に造った。アルコール添加の甘みのあるベトベトした酒になってしまった。そんな状況を憂えて、微生物の力を借りて添加物の混じらない純粋な酒造りに取り組んでいる。

 例えば、寺田本家には、7年の歳月をかけた“発芽玄米酒”がある。玄米の胚芽部分には抗酸化作用のあるビタミンやミネラルがある。腸内のバランスを整え、血液も浄化する作用がある。玄米には、健康維持に必要な「生命力」がある。
 「玄米の生命力」を生かした、精米歩合100%の「玄米酒」を目指した。玄米の殻が堅く、発酵がうまく進まず、玄米を煎ったり、二度蒸ししたり、棒で叩いて殻を破ってみたり・・・試行錯誤を繰り返したが、伊勢神宮の古代酒の資料にヒントを得て、玄米を発芽させたら発酵に成功した。
 酸味が強く、香りも独特。飲んでいるうちに癖になる。血圧が下がった、花粉症が改善された、便秘しなくなった、よく眠れる、手足が温かくなった・・・。健康志向の時流にのり、大好評を博している。

 1948(昭和23)年生まれの寺田さんは、7人兄弟の末っ子。泣き虫の、しょうべんたれだった。人前で話せない対人恐怖症だった。
 大学を中退して、父の経営する電化製品の販売会社で働いた後、1974(昭和49)年、酒は飲めない、酒造りをまったく知らない状態で、寺田本家に養子に入った。
 高度成長期、どんな酒を造っても売れた。「酒は百薬の長」らしいが、そんな謂われには無縁な「売れればいい」という姿勢だった。だが、日本酒の売れ行きは、石油ショックを境に右肩下がりになっていく。
 そういう状況に陥ったことを、寺田さんは「世の中が悪い!社員が悪い!」と思っていた。自分だけが頼りだ。自分だけが会社を背負って生きていると思っていた。そんな寺田さんに愛想を尽かし、杜氏や番頭がやめていった。夫婦喧嘩が絶えなかった。「賭け事」にものめり込んだ。仕事の不満が、博打で紛れる訳もなく、ストレスは限界に達していた。

紀元後の寺田さん

 35歳にして、人生の大転換がやってきた。十二指腸潰瘍を経て、腸が腐る病気になったのだ。下着に膿がついたが、痛くも痒くもないので、1年も放置しておいた。あまりにも長く続くので、診察を受けたら、直腸の管が腐る病気と診断された。進行すると、手術して「人工肛門」生活になるところだった。辛うじて、一歩手前で最悪の事態は免れたが、腐った部位は全て切除した。2週間の入院で、50本のタバコに、3食かつ丼のような肉食系人生を猛省した。
 本気で「生き方」を考え始めた。反自然的な生き方や、不調和の積み重ねが「腐る」という事態を招いていたことに気づいた。「発酵」と「腐敗」は紙一重ということに気づいた。発酵していれば腐らないことに気づいた。
 ナスもキュウリも放置してれば、腐るが、糠味噌の中では、いつまでも腐らない。日本の発酵食品の代表である味噌や醤油が製造過程で腐ったという話は聞いたことがない。味や香りを変化させながら、腐ることなく成熟させ発酵していくからだ。「発酵」も「腐敗」もメカニズムは同じ。どちらも微生物が生産した酵素の働きによって、有機化合物が分解され、別の物質を創り出す現象だ。その物質が、人間に有益なら「発酵」と呼ばれ、有害なら「腐敗」と呼ばれる。
 変化を続ける限り「発酵」。変化が止まれば「腐敗」。自分は、体や心も腐敗していた。自分が、自分がの「我意識」は「腐敗」。利益や欲を捨てた純粋な意識は「発酵」。「自分も発酵していこう、会社も発酵していこう」と思い直してからの人生は、紀元前と紀元後のように変わった。
 まずは、原料の見直しから始めた。農薬も化学肥料も使わない米を使い始めた。これまでの3倍経費がかかったが、儲けは捨てた。自分の都合は捨てて、相手の喜ぶことを第一に考え、「人の役に立つ酒造り」がテーマになった。
 「日本酒」は、「発酵の力」によって生まれる。「コウジカビ」と云う微生物が、米のデンプンを糖に変える。「酵母」と云う微生物が、その糖をアルコールに変える。「微生物」は酒蔵の中に棲んでいる「蔵付き酵母」。蔵の中の天井や土壁、柱、木桶などに微生物は棲み付いている。自然に存在する「微生物」に寄り添い、その生命力自体を生かそうと決意した。
 微生物たちから教わったことは大きい。彼らの役割を心得た働きぶりは見事だ。使命や役割が終わったらスムーズにバトンタッチしていく。多種多様な微生物が参加することによって、命の宿った酒が出来る。
 微生物の世界は、「自分らしく、楽しく、仲良く」。微生物は、何一つ、求めない。空っぽになるまで、与え続ける。「自分にとって心地よいことを選択していくことが、自分を生かす最良の生き方」なのだといわんばかりだ。
 商売は、『大きくしない、無理しない、PRしない』でやってきたが、結果があとからついてきた。評判が評判を呼び、顧客がつき、利益もあがった。寺田本家も発酵しはじめた。みんな微生物のおかげなのだ。

 寺田さんの今年のテーマは、『それ、いいね』。この1年どんなことにも、『それ、いいね』「愉しいね、面白いね」で生きようと思っている。「無限に感謝していれば、問題が起きない。人が嬉しいと思うこと、自分が楽しいと思うこと、ありがたいと思えることを為していけばいい」。そう思っての商いを寺田さんは「発酵商法」と呼ぶ。
 「いつでも素直に」「あくまで謙虚に」「すべてに感謝して」「ありのまま受け入れる」という姿勢でいれば、あとは「何があってもありがとう」と言うだけで発酵していく。
 発酵の極意は、「何があっても笑っちゃう」。うそでもいいから「ありがとう」と言っていると、後から本当の「ありがとう」がついてくる。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
好評発売中

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

 堀江実のポエムコンサートをCDでお届けします。

  詩と朗読
  フルート
  ピアノ
  構 成

  Disk1
  Disk2
 堀江実
 イネ・セイミ
 はちまん正人
 佐藤よりこ

 光のように
 花のように

 言霊に癒されるCD堀江実のポエムガーデン
 やさしい風がふいています。
 木々の梢は光っています。
 あなたの心がやすらぎで満たされますように。
 あなたの心に喜びがあふれますように。

2003年10月22日発売 CD2枚組 3,150円(税込み)