海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 『大人の流儀』という本が売れている。書いたのは、作家の伊集院静さん。まさに大人の流儀で生きている人だ。どこか近寄りがたさを先入観として持っていたが、実際の伊集院さんは、含羞のある優しい人だった。時にズバリ核心を突く直言も、本気でその人のことを思うがゆえの優しさだと気づいた。

震災を経験したこと
 自宅が仙台にあり、東北大震災を経験した。
 震災の夜の星空が今も心に残っている。満天の星空を見ながら「自然が人を蹂躙しても平然としていることに怒りすら覚えた。しかし、生きている人間は、すべての悲しみをひっくるめて生きていかなければならない。あの星の輝きはいまここにいる人に進む道を教える光と思い直した。光あるほうへ歩いていけると伝えたい」。

 東北には、南部鉄や鉄工所など鉄、ハガネを大切にしてきた文化がある。冬が厳しいからこそ咲く花を喜べる気質もある。「ハガネのような強い精神と、咲く花のようにやさしいこころを持っていてほしい」。
 震災の後、新聞や雑誌に震災についての寄稿を積極的にしている。メディアが現状を伝え切れない中、被災者となった人々の姿を自分なりに伝えることが自分の役目だと考えている。「日本が岐路に立っていることを認識しなくてはいけない。工夫と連帯でいまの状況を乗り越えることが『生きる』ことだ」。
 「自分のことだけ考えるのに精一杯な人になってはならない」。幸せの形は共通点が多いが、悲しみの形はみな違う。他人には計り知れない。震災を肝に銘じるため、震災記事の死亡者名簿をすべて読むようにしている。

大人の流儀
 震災直後にエッセイ『大人の流儀』が出版された。「大人の男」の振る舞い方を、時に厳しく、時にユーモラスにわかりやすく書いている。
 安易に答えを求め、利己主義がまかり通り、孤独に耐えられない人々が増える中、伊集院さんの歯に衣着せぬ直言を読んでいるとスカッとする。だから30万部を超えるベストセラーになったのではないか…。
 「人生とは割に合わないもの。それを平然と受け入れるのが大人」だと伊集院さんは断言する。
 本の最後に、妻だった夏目雅子さんの闘病について書いている。没後25年間ほとんど触れてこなかった夏目さんのことを、ようやく書いてもいいかという気になったが、書いている間は苦しかった。
 「天真爛漫な人だった。私のような青二才より一枚も二枚も上。病床にあっても泣き言を口にしなかった」夏目さんを失った喪失感は、計り知れなかった。
 途方に暮れたが、自分以外の人に助けられ、慈愛に抱かれていたことに気づいた。外国映画に登場した年老いた女性が言うせりふが伊集院さんの脳裏によみがえる。

 「あなたは、まだ若いから知らないでしょうが、悲しみにも終わりがあるのよ」。
 時間をかけて悲しみと向き合い、悲しみと存分につきあった上で、すべてをひっくるめて生きていれば、いつかは必ず立ち直れる。そう教えてくれた人が、いねむり先生だった。

誰のそばにも「いねむり先生」
 最新刊の小説のタイトルは『いねむり先生』。
 サブローという男が女優の妻を病気で亡くし自暴自棄となっているときに、いねむり先生に出会い、ともに時を過ごしていくなかで希望を取り戻していく物語だ。自叙伝的な小説で、サブローは伊集院さん、妻は夏目雅子さんのことだ。
 そしていねむり先生は、作家にしてギャンブルの神様と言われた色川武大さん(阿佐田哲也さん)だ。色川武大の名で『狂人日記』などの純文学小説を書き、阿佐田哲也の名で『麻雀放浪記』などの大衆小説を書き、"雀聖"としても讃えられた。
 色川さんは、何かしている途中でも突然眠ってしまうナルコレプシーという睡眠障害の持病があった。小説の冒頭に「その人が眠っているところを見かけたら、どうかやさしくしてほしい。その人はボクらの大切な先生だから」と書かれている。
 いねむり先生は、時々いねむりしながらも、伊集院さんの傍らにいてくれた。色川さんのように、損得勘定なしで人に優しく寄り添うことが、今の時代に必要なのではという思いが込められている。
 震災があり、原発事故があり、終わりの見えない絶望感にひたされている人がたくさんいるが、誰にも「いねむり先生」のような存在はいるはずだ。助けを求め、手をさし出せば、その手を握ってくれる人がいるはずだ。自分ではどうにも出来ないことに巻き込まれた人に、手を差し伸べるのは、人間としてあたりまえの使命だと、伊集院さんは直言する。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
好評発売中

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

 堀江実のポエムコンサートをCDでお届けします。

  詩と朗読
  フルート
  ピアノ
  構 成

  Disk1
  Disk2
 堀江実
 イネ・セイミ
 はちまん正人
 佐藤よりこ

 光のように
 花のように

 言霊に癒されるCD堀江実のポエムガーデン
 やさしい風がふいています。
 木々の梢は光っています。
 あなたの心がやすらぎで満たされますように。
 あなたの心に喜びがあふれますように。

2003年10月22日発売 CD2枚組 3,150円(税込み)