海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 新年からスタートするNHK大河ドラマ『平清盛』。その題字を手がけるのは、書家の金澤翔子さん。どっしりと力強い字に優しさと慈しみが感じられる。
 番組のプロデューサーがたまたま展示会で翔子さんの字を見て感動して依頼した。翔子さんにとっての平清盛は、「鉄腕アトムのように、強くて優しい人」らしい。取材旅行に出かけたときに翔子さんの素敵な一言があった。下関のホテルに泊まったとき、目の前に壇ノ浦が広がっていた。母が「ここで平清盛の子孫が戦って亡くなったのよ」と話すと、食事にふぐ料理が出たときに「これが平清盛の子どもたちなんだよ」

うらやましい生き方

 翔子さんは1985年6月生まれ。
 翔子さんはダウン症の書家だ。ダウン症は、染色体が通常より1本多いことで、成長の過程がかなりゆっくりしていたり、心臓疾患などの合併症を伴ったりすることもある先天性の病気だ。翔子さんは、5歳頃から、書家である母の泰子さんの手ほどきを受けてきた。
 母は、漢字の形だけでなく意味もわかりやすく教えた。字を右上がりに書くことを教えるために、坂道を何度も上り下りして体で覚えさせた。
 10歳で般若心経を書き上げたが、その根気や集中力はすごい。何度やってもうまく書けなくて、叱られた。母は、娘が泣いてもやめさせなかった。やっと一行が終わったとき畳に手をついて「ありがとうございました」と言われ、母は、涙があふれて止まらなかった。アンバランスな字の羅列なのに、それが集団としてひとかたまりとなると、不思議なバランス感覚が生まれていた。今から考えるとこれが、書の道が開けたときかもしれない。
 父の裕さんは、翔子さんが14歳のときに突然、他界した。だが、翔子さんは、父の死を悲しまなかった。「大丈夫、お父様は天国から全部見ているから、心配しなくていいよ」父は生前「翔子が20歳になったら、個展を開こうよ」と言っていたが、それが20歳で本当に実現した。
 20歳で初めての個展を開いてから、どんどん活躍の場を広げてきた。鎌倉・建長寺では毎年個展を開き、京都・建仁寺では俵屋宗達の「風神雷神図」の隣に、翔子さんが「風神雷神」と揮毫した書が展示されている。
 翔子さんの、ときには「雄雄しく」、ときには「優しく包み込む」ような書は、多くの人の心を動かしている。

 翔子さんの好きなことを紹介しておこう。ラッキーカラーはピンク。料理(カレー、ハンバーグ)や掃除が得意。パソコン、携帯電話も駆使している。僕ともさっそくメル友になった。メールの返事は決まっている。「頑張ってください。私はいます」

 翔子さんは、肯定的な言葉しか言わない。暑い、寒い、辛い、欲しい、悲しい、嫌だなどとは口にしない。将来の不安を恐れたり、社会を憂えたり、競争や試験とは無縁。ねたみやそねみもない。ただし、経済観念がない。貨幣価値や数列はわからない。時間の観念もない。でも好きなテレビ番組の開始時間はわかるから不思議。
 「要求される正解を想定して答える必要がない」無垢で楽しく暮らす豊かな世界にいる翔子さんが、うらやましくなる。

屈託のない世界

 翔子さんの願いは不思議とかなう。母の泰子さんに言わせると、「努力なしに、ヤスヤスと得たことが大成功するタイプ」だそうだ。
 翔子さんは、お寺の区別はまったくつかないけれど、唯一知っているのが東大寺だった。中学校の修学旅行で奈良の大仏様を見たときに「お父様」と思った。顔がいささか似ている。「お父様の前で書きたい」と言っていたのが実現したのだ。
 先月、東大寺で個展が開かれた。ちなみに、東大寺の焼き討ちをしたのは、清盛の弟。大河の題字の話をしたら管長の顔が、八百年前のことを思い出し雲った。お詫びの気持ちを込めて『円融』の字を書くことにした。

 翔子さんにとって、母の存在が大きいのは言うまでもないと思うが、母の泰子さんにとっても、翔子さんの存在は大きい。広島のホテルで月明かりの下、一緒に風呂に入った。「かあさん、しあわせ?たのしい?」と突然、翔子さんが聞いてきた。「もちろん、幸せよ」と答えた。母の泰子さんは、26年前は、日本一不幸だと思ったこともあったが、いま日本一幸福だと言い切れる。いまは、ダウン症でよかったと思える。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

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(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

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