海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

 大阪市の中心部、中之島。堂島川と土佐堀川に挟まれた中州。緑豊かなこの場所は、周辺のビジネス街に勤める人たちの憩いの場になっている。レンガ造りの歴史的建造物、中央公会堂の向かい側に、大阪市立東洋陶磁美術館がある。
 収蔵品は、朝鮮半島や中国の陶磁を中心に、国宝2件、重要文化財13点など、4000点の陶磁器がある。収蔵品の多くは、安宅英一という大変な目利きが集めた「安宅コレクション」が中心である。東洋陶磁では、日本一のコレクションである。

回答のない修業

 大阪市立東洋陶磁美術館名誉館長の伊藤郁太郎さんは、1931年の大阪市生まれで、80歳だが、全くそんな風には見えない。60歳でも通る。伊藤さんは、安宅英一の側近として、手となり足となり、コレクションの収集に当たった人だ。朝鮮陶磁の普及に貢献したということで韓国政府から文化勲章を授与され、東洋陶磁の研究により文化庁長官表彰も受けている。
 伊藤さんは、東北大学で美学・美術史を学び、恩師の紹介で安宅産業に入った。なれないデスクワークに勤しんでいたら、入社一ヶ月ほどして、安宅さんの秘書からメモを渡された。『展覧会を見てきなさい』というものだった。
 その時の展覧会は、今も忘れられない衝撃的なものになった。中国・宋時代の陶磁器の名品との最初の出会いだった。
 それからというもの、秘書からの伝言で、あれを見ろ、これを見ろと指示が来た。古美術商を訪問する同行も命じられた。本来業務をこなした上で、アフター5のことだった。
 安宅会長が趣味人で、美術品の収集に興味を持っているということは知っていたが、骨董修行の訓練なのか、ただ見るだけなのかが皆目わからない。こういう所がよいとか、見所の説明とか、一切の解説や説明もない。
 そのうちに、家に呼ばれ、幾つかの作品を見せられ、『いいと思った順に並べなさい』と言われた。これは、テストだと思い、緊張して、おずおずと並べ替えると、『ふっふっ』と微笑んで、『まだ、無理ですかね』と言う。答えは教えてくれない。

 すごいものは、忘れられない。好きになるものだ。展覧会に行って、100点の作品が展示されていたら、100点を全て見なければならないと思う人がいる。そんなことはない。自分の心に引っかかった作品を見つけ、それをじっくり見るだけでいい。見ていると、その作品と対話できるようになる。好きな物であれば、言葉を尽くさなくても心を通わすことが出来る。
 無言のうちに推し量る、感じ取る・・・忖度(そんたく)するということを安宅さんから教えられた。伊藤さんは、「いまはおかゆ文化になってしまった」と嘆く。何でも噛み砕いて教え過ぎる。何でも理詰めで考え過ぎる。「わからない」と言えることはすごいことなのだ。
 結局、骨董修行とは、自分の感性を磨き、自分でつかむものなのだ。「安宅さんは、私を追い込んで、自らの道を探らせようとしていたのだろう」と伊藤さんは振り返る。『何でも、一流のものを見聞きしなさい』と、コンサートやオペラ鑑賞、能や歌舞伎、バレエ鑑賞などに連れていってくれた。芸術家や趣味人との骨董談義にも加えてもらい、そうしたことの全てが、美術品を見る肥やしになった。
 そして、安宅さんに命じられるまま、古美術品の買い付けに駆け回った。韓国や中国に何度も赴いた。大金を抱えながら、美術商と互いに一世一代のやりとり。修羅場を幾度も潜り抜けた。

幸福な修業

 安宅産業は、昭和52年(1977年)に、石油事業の破綻から崩壊に追い込まれる。伊藤さんの骨董修行はそれまで続いたと言える。安宅産業が経営破綻した後、そのコレクションが散逸することを惜しむ声が各方面から上がり、多くの政財界人たちが知恵を絞った結果、住友グループ21社が協力し資金を出し、大阪市に寄贈するという形で30年前に美術館がオープンしたのだ。
 会社の崩壊と共に、伊藤さんもサラリーマン生活に終止符を打ったが、その5年後、大阪市立東洋陶磁美術館が開館し、館長に就任した。50歳の時だった。
 安宅さんからも『あとは、頼みましたよ』と言われ、大きな責任を感じた。「毎日、作品に囲まれていると、いつも、安宅さんに『しっかりしろ』と言われているような気がして、上司が安宅さんから美術品に代わっただけ」と笑う。

 安宅さんが収集に及んだのは、個人的に美術品が好きだっただけでなく、「社員が美術や文化に触れることで、社員の教養を高め、精神的にも豊かな生活をして欲しいという気持ちがあったようだ」。その恩恵に、最も浴したのが伊藤さんだったかもしれない。伊藤さん自身も自らを「世界で一番幸福なサラリーマンだった」と思っている。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
好評発売中

■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月1回 第2金曜日 午後1時〜
 会 費:1回 2,500円(4ヶ月分前納制)
 問合せ:0563−32−0583

イネ・セイミ

 堀江実のポエムコンサートをCDでお届けします。

  詩と朗読
  フルート
  ピアノ
  構 成

  Disk1
  Disk2
 堀江実
 イネ・セイミ
 はちまん正人
 佐藤よりこ

 光のように
 花のように

 言霊に癒されるCD堀江実のポエムガーデン
 やさしい風がふいています。
 木々の梢は光っています。
 あなたの心がやすらぎで満たされますように。
 あなたの心に喜びがあふれますように。

2003年10月22日発売 CD2枚組 3,150円(税込み)