海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

旅する絵描き

 絵本作家の「いせひでこ」さんは、旅する絵描きとして、旅をしては心動くものに出会い、心動くものを求めては旅をして、自分の目で見たもの、聞いたものを描いてきた。
 パリの路地裏で本造りをする職人を描いた『ルリユールおじさん』、
 阪神淡路大震災復興への思いを込めた『1000の風 1000のチェロ』、
 孤独な少年と三本足の犬との心の交流を描いた『あの路』…
 さらには、ゴッホや宮沢賢治をテーマにした作品をライフワークにしている。

 1949年、北海道札幌の生まれ。絵を描くのが大好な子どもだった。
 銀行員の父は、絵が大好きで「日曜画家」だった。父から受けた影響は大きい。小学生になると、「白い紙を見ると手が動く病気」にかかった。この病気は、いまだに完治していない。幼い頃から、白い紙さえあれば、いつまでも「絵」を描いている子どもだった。鉛筆を持つと時間を忘れた。気持ちを言葉にするのが苦手だったから、絵に没頭していれば、言葉を喋らなくても済んだ。
 幼いころから、自己陶酔すると、見境がつかなくなる。漫画雑誌に夢中になり、100人以上の漫画家の名前を覚え、70あまりのキャラクターを描き分けた。ジュリーに夢中になって、帽子とサスペンダーに凝ったこともある。賢治好きが高じてチェロも本格的に習った。
 東京芸大デザイン科に入り、大学院に進むが、休学して、パリで暮らし始めた。「自分は何者なのか…?干渉されずに一人で生きたい」と、絵と日記帳を、全て焼き捨てて、旅立った。やると決めたら、半端でない覚悟で臨むのも性格のなせる技だ。

2つの震災

 阪神淡路大震災の時、二ヶ月後の神戸を訪れた。青いビニールシートでいっぱいの雨の公園。生活は壊れ、犬や猫もいない街になっていた。郵便屋さんがずぶ濡れになりながら、家がなくなった人たち一人一人を探しあぐねて歩きまわっていた。
 自分も、破壊された街中を歩き回った。旅好きだった自分の、いつもの取材の形だったが、街の風景は断片になっていて、描かれることを拒否しているようだった。描けないのではなくて、描いてはいけないかもしれない…。描いてしまったら、目と手が記憶してしまって、どこかに仕舞い忘れてしまうと感じた。白紙のままのスケッチ帳を持ち帰るしかなかった。

 東日本大震災には、さらに、かなりのショックを受けた。
 「居ても立ってもいられない自分がいた。1カ月近く表現が出来なかった」。考えて、考えて…、生きること、未来に繋がることを描いて、子ども達に伝えようと思った。木の実の「芽吹きの物語」に、命のつながり、生命力の強さ、未来への希望を込めた。そうして生まれたのが『木のあかちゃんズ』という絵本。
 ほとんど鉛筆だけで描いた柔らかなモノトーンの世界だ。登場するのは、まさにいろんな木の実の赤ちゃんズ。人間の赤ちゃん姿の木の実たち。ケヤキの赤ちゃんに、お母さんがしがみついて離さない。初夏の光と風の中を、心から愉しげに木から旅立っていくハルニレの赤ちゃんたち。秋を待ち切れずに、葉っぱのボートで旅立つアオギリの赤ちゃんたち…。30年でも100年でも、眠って待つメマツヨイグサの赤ちゃんたちには、「原発事故後」の長きに渡るであろう苦難も意識した。この絵本を携えて、被災地にも行った。朗読会で、現地の子どもたちとも交流した。
 絵本には、あちこちページをめくりながら、時間を前後させて見る楽しみがある。親子で対話しながら読むのは、ITやネットでは出来ないことだ。世代を超えて、ゆっくりと繋がりながら伝え合ってほしいと、いつも語り続けている。

描くまでの時間

 いせさんが、描き始めるまでに費やす時間は、並大抵でない。だから、いせさんに絵を依頼しても5年待ちと言われる。自分が知らない世界は描けないという思いがあるから、徹底した現場主義だ。描く場所を下見したり見学したりという程度の生易しいものではない。『海のいのち』という絵本で海中を描くため、スキューバダイビングスクールに通ったこともある。
 実在しない場所、架空の話を描く時は、イメージ作りに時間をかける。自分で見当をつけた場所に行ってみて、「きっとここだ」と思えるところを探す。
 『よだかの星』という絵本の時。賢治好きなので、岩手山のあたりには何度も通ってスケッチをしていたから、山並みや自然の感じはわかっていたが、「よだか」が「かわせみ」にお別れのあいさつをする場面の夕日の色は、どう見えるのかがわからなかった。自分が「これだ!」と思う夕日を見ないと絶対に描けないと思い、西を目指して、東京から信州に向かう電車に飛び乗って、夕日を探しに行った。旅する絵描きは、本能的に動くのだ。
 『はくちょう』という絵本は、ロマンチックな詩のような物語。
 このときは、白鳥が越冬に来る11月の北海道、北へ帰っていく3月の福島県・猪苗代湖を取材して、白鳥はもちろん、枯れ草や春の色をしっかり見てスケッチしてきた。作者の内田麟太郎さんから「この池が舞台」という指定を受けたわけではなかったが、自分が「これだ!」と思う池を探し回った。北海道・摩周湖の裏手に、地元の人しか知らないような湧き水だけの池があった。そこに行き着いたときに直感で「白鳥に恋する池はこれだ」とわかった。物語の舞台であり、主人公である池が決まると筆が持てた。
 自分以外の人が書いた文章は、どんなものや場所をイメージしているかが、初めにわかっていない分、絵を描くときに苦労する。「これだ!」と思えるものを見つけてまで、納得するまで時間がかかるのだ。
 こうして出来あがった絵は、多くの人の心をとらえ、想像を膨らませてくれる。言葉を表面的に捉えて絵をつけるのではなく、自分の中で一度消化し、新たな作品として表現されたものになる。絵を見た人たちも「これだ!」と大きくうなずくにちがいない。

■村上信夫プロフィール
NHKチーフアナウンサー
1953年、京都生まれ。
明治学院大学卒業後、
1977年、NHKに入局。
富山、山口、名古屋、東京、大阪に勤務。
現在は、「今日も元気で!わくわくラジオ」(ラジオ第一8:35〜)、
「BS将棋中継」などを担当。
これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。
教育や育児に関する問題に関心を持ち続け、横浜市で父親たちの社会活動グループ
「おやじの腕まくり」を結成。
趣味は、将棋。
著書に「元気のでてくることばたち!」(近代文芸社)
「おやじの腕まくり」(JULA出版局)
「いのちの対話(共著)」(集英社)
「いのちとユーモア(共著)」(集英社)

「元気のでてくる"ことばたち"」
(近代文芸社)
1,500円(税別)
おなじの腕まくり「おやじの腕まくり」
(JULA出版局)
1,400円(税別)
「言えなかったありがとう」
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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

* 俳画教室開講中
 ところ:常滑屋
 と き:月2回 第2、4金曜日 午後1時〜3時
 会 費:1回 2,250円(3ヶ月分前納制)
 問合せ:0569−35−0470

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