海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

人の心に火をつけるマエストロ
 心を一( いつ)にして身体全体が、音楽に包まれているようだった。去年のクリスマスの夜、第九を聴いてきた。
 この日のマエストロは、小林研一郎さん。その手綱捌きが見事だった。彼は、指揮棒の先から、一人一人の才能を引き出す達人だ。時折、指揮棒を天井に向けて突き出すしぐさをする。客席の方を振り返り、指揮棒を突き出すこともある。「天に届け」「聴衆の心に届け」という想いで、そうしているらしい。
 小林さんに聞いたら、この日の夜の演奏会は「会心の出来」だったと言う。この日、演奏が終わって、小林さんは聴衆にこう語りかけた。「今夜は、オーケストラも、合唱も、ソリストも…宇宙でした」。

 小林さんは、よく炎のマエストロ≠ニ呼ばれる。ご本人は、照れも手伝い、この呼び名は、嬉しくないようだ。
 「僕は本質的には静けさの漂っている音楽が好きですから。ただ僕の音楽を聞いた人が燃え上がった時に、そういう言葉を使ってくださるということについては、大きな感謝の念を持っています」。
 だから正確に言えば、人の心に感動の火をつける炎のマエストロなのだ。
 小林さんの指揮は、楽団員だけじゃなく、観客も知らないうちに魂を鷲づかみにされる。別世界に連れていってもらえる。人の心にいつまでも忘れられない感動を植え付ける。自分が炎なのではなく、周りが焚きつけられて炎になるのだ。小林さんも楽団員も観客も1本のロウソクで、気がついたらみんなに火がついて燃えている感じなのだ。

 小林さんには、人生を変えた音楽がある。ベートーベンの「交響曲第九番」合唱付き。10歳の時に初めて聞いたとき、小林少年の心に火がついた。
 「心をかきたてられ、胸が躍った。涙がぼろぼろこぼれて、立っていられないような気持ちになった。これは何なんだ!僕は絶対作曲家になろう」と誓った。
 だが、音楽に造詣の深かった父が立ちはだかった。自分も音楽をやりたかったけど出来なかった…。厳しさがわかっているからこその反対だった。だが、父という壁があって、立ちはだかってくれたから、今の自分があると思う。否定されて逆に燃え上がった。

  中学1年の時、作曲コンクールで1位になって、NHKラジオで放送された。その時講評の方が「中学生でこれほど見事な曲が書ける子を私は知らない」と言ってくれて、それがきっかけで父も音楽の道に進むのを許してくれた。

マエストロのおまじない
 小林さんは1940年、福島県いわき市生まれ。小さい頃、山野や海辺を駆けまわった故郷が、5年前に姿を変えてしまった。
 「僕の記憶の中にはいつも海があるのです。子どもの頃は、穏やかで美しい潮騒の音で目を醒ましたものですが、それが、あの津波のゴーッという音に変わった瞬間、いわきはまったく形を変えてしまいました。震災後いわきに行って、海辺に潰れた家だけが残る光景と、聴こえて来る海の音が風に乗って時折強くなるのが、悲惨さをより強くしましたね」。
 震災の年、津波で校舎も楽器もなくした中学校で、即興でピアノを弾きながら子どもたちに語りかけた。ベートーベンの話をした。「ベートーベンは耳が聴こえなくて自殺まで考えた。音楽家が自分で作った曲を聴くことができないほど悲しいことはないけれど、彼は心の中で声を聴き、音を聴き、世界中に自分の音楽を伝えようと思った。だからみんなもここで打ちひしがれないで、前を向いて歩いて行こうじゃないか。ベートーベンは苦悩を突き抜けて歓喜に至れ≠ニ言ったけど、この言葉を僕たちも大事にしよう」と。
 そして、口癖の心を一(いつ)にして≠ニいう言葉を、子どもたちの前で何度も口にした。「僕は、オーケストラの方々と心を一(いつ)にするために、自分がどういう立場にいなければいけないか、どうしたら音楽を豊穣に舞い上がらせることが出来るか、いつも考えています」。
 心を一(いつ)にするということは、「心のひだとの会話だ」とも言える。楽譜を読み込んで、ひだとひだの会話が成り立った時に、とても美しい世界が生まれるかもしれないと思っている。演奏者や聴衆だけではなく、作曲家も指揮者も含めて、心が一になった時にいい演奏が出来ると思っている。
 心を一(いつ)にしようと思っても、なかなか出来るものではない。でも言葉にすることで、それをみんなが意識するようになる。
 心を一(いつ)にしてというのは、自分を鼓舞するおまじないなのかもしれない。

■村上信夫プロフィール
2001年から11年に渡り、『ラジオビタミン』や『鎌田實いのちの対話』など、NHKラジオの「声」として活躍。
現在は、全国を回り「嬉しい言葉の種まき」をしながら、文化放送『日曜はがんばらない』(毎週日曜10:00〜)、月刊『清流』連載対談〜ときめきトークなどで、新たな境地を開いている。大阪で『ことば磨き塾』主宰。
1953年、京都生まれ。
元NHKエグゼクティブアナウンサー。
これまで、『おはよう日本』『ニュース7 』『育児カレンダー』などを担当。著書に『嬉しいことばの種まき』『ことばのビタミン』(近代文藝社)『ラジオが好き!』(海竜社)など。趣味、将棋(二段)。

http://murakaminobuo.com


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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

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