海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
元気のでてくることばたち 村上信夫NHKアナウンサー

近藤正臣さんとは、岐阜県郡上八幡の喫茶店で待ち合わせた。近藤さんはこの店の常連客の一人。店に出入りする地元の人と気さくに会話している姿は、すっかり地元民だ。
 名刺を渡して挨拶をすると、「よう、存じています」と。この一言で、壁はなくなる。さらに名刺を見て、ボクの顔を見て、「63歳?…なんや調子狂うな(笑)」「京都生まれか。京ことばでいこか」と。ほんとうに人と馴染むのが早い人だ。
 対談は、ほとんど近藤さんの一人語り。万事、落語調なのだ。登場人物のセリフを演じ分け、面白く語るから、ついつい聞き入ってしまった。

郡上八幡の川ガキ
 近藤さんは、郡上八幡に、30年あまり前から通い詰めている。
 「最初はドラマの撮影で来たんですが、本当に居心地がいいんですよ。私は京都生まれで、家のすぐ前に高瀬川、後ろには鴨川があり、ガキの頃は川が遊び場でした。30代は海ガキでダイビングばかりやっていましたが、ここに来てすっかり忘れていた川ガキだった頃の自分を思い出し、郡上八幡の川を気に入ってしまったんです」
 「川釣りは、わからないことだらけで。地元の釣り師にいろいろ教わりました。アマゴとイワナは非常に敏感だから人影を感じるといなくなるし、一人で行くのが基本です。『お前さんなあ、人のなりをして川に立っていたやろ。あれはあかん。動かず気配を消して、石になるか木にならんとあかん』といわれましたよ。いくら俳優でも石や木にはねぇ……(笑)」。
 ここに来ると、俳優の近藤正臣ではなく、ただの川ガキになれるようだ。「ガキの頃の自分を忘れた大人は、ただのクソジジイだ」と笑う。
 「ここでは、役者であることも忘れられるし、ここのみんなも普通に接してくれます。魚が釣れなくても、鳥の鳴き声を聞いたり、草木の色が微妙に変化していくさまを見ているだけで楽しい。ガキの頃と同じものを見ているのに、年を取ると別なものも見えてくるんです。東京にいたら、それすら気づかないんだよなあ」。
 近い将来永住するつもりでいる。


桜の花の下にて死なん
 ずいぶん前から尊厳死協会に入っている。エンディングについて、50代の頃から考えていた。50代とは少し早いような気もするが、動機があった。お母さんのことばだった。
「母は若い頃から男はんが大好きで、惚れたのはれたのってばかりやってました(笑)。だいたい俺自身が妾の子やし、母はやっぱりステキな女だったんですよ。その母が年を取って隠居するというんたんですわ。『もう客の相手するのもしんどくなってきたさかいな。あんたも知ってるやろうけど、うちにはお金がない。全部使うてきてるからな。私も長いこといろんな男としょうもないことしてきたけど、あんたが私の最後の男や』っていわはった」。息子に殺し文句を使う母であった。息子もその気になったが、さらに具体的要求があった。
 「『私、比叡山のほうに住みたいねん。いま造成してるらしいし、そこに家を建てようか思うてるんや』『お母ちゃん、金ないていうてるやんか』『あんたがやるんやで』『ああ、そうかあ』てなことになったんですわ。しばらくして電話がかかり『決めたで、正臣』『そうか、一人で住むんやったら五〇坪もあればええやろ』というたら、なんと二〇〇坪!。『そりゃあんた、なんぼなんでも』ってびっくりですわ(笑)」。
 しかし、最後の男といわれたからには、買わないわけにいかない。
 母はこうも言った。「私、お墓はいらんねや。滋賀で生まれて祇園に来たから、琵琶湖と京都の両方が見えるところで、比叡おろしが吹くときに骨撒いて」 「私、桜が好きやねん。ソメイヨシノはあかんえ。山桜がええ。毎年散った花びらが川面に浮かぶようなところがええねん」
 その母の覚悟が、心に残っていた。お気に入りの郡上八幡に家を建てようと思い、土地を探していて、見つけたのが川岸に桜の木がある場所だった。「そうや、ここに山桜を植えて、ボクの骨も、桜が散るときに川面に向かって撒いてもろたらええわと思うたんですわ」。延命措置はいらない、坊さんも不要、死に顔は家族以外、見てはならないと、公正証書に書いている。

約束守った曾祖父
 近藤さんの曾祖父、近藤正慎( しょうしん)は幕末の志士で、壮絶な死に方をしている。清水寺の寺侍の正慎は、西郷隆盛と公家とのパイプ役だった月照の配下だった。安政の大獄で逮捕され、厳しい取り調べを受けたが、彼らを守るために舌を噛み切って自害した。
 「親父は妾の子の俺に近藤を名乗らせ、正臣と名づけた。ざれごとやと思いますが、正臣を音読みすると『しょうしん』なんです」。
 「親父はボクが二歳のときに死んでいますが、本妻さんは清水寺の境内で茶店をやっていて、親戚みたいな感じでよく遊びに行っていました。本妻さんも、のんびりと構えたもので、いつも歓迎してくれた。そして『あんたのひいおじいちゃんは偉い人やったんやで』という話が始まるわけです(笑)。大義を貫いた恩賞として、近藤家は永代、清水寺の境内で茶店をやっていいと許されたそうです。それが清水さんの『舌切茶屋』という茶店ですわ」
 「曽祖父の死に様は真似したくないけど、生き様は真似したいですね。口約束でも約束は破ったらあかんと思うてます」。

 対談後、釣り場の吉田川にある格好の撮影スポットに案内してくれた。そして、腕組みをして写真撮影してくれたのだ。滑りやすい岩場だったので、心配りしてくれたのだ。
 役作りにも入念な心配りをする近藤さんだが、素顔の時も、飄々と淡々と、心配りする人だった。

■村上信夫プロフィール
2001年から11年に渡り、『ラジオビタミン』や『鎌田實いのちの対話』など、NHKラジオの「声」として活躍。
現在は、全国を回り「嬉しい言葉の種まき」をしながら、文化放送『日曜はがんばらない』(毎週日曜10:00〜)、月刊『清流』連載対談〜ときめきトークなどで、新たな境地を開いている。大阪で『ことば磨き塾』主宰。
1953年、京都生まれ。
元NHKエグゼクティブアナウンサー。
これまで、『おはよう日本』『ニュース7 』『育児カレンダー』などを担当。著書に『嬉しいことばの種まき』『ことばのビタミン』(近代文藝社)『ラジオが好き!』(海竜社)など。趣味、将棋(二段)。

http://murakaminobuo.com


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■イネ・セイミプロフィール
フルート奏者として活躍中。俳画家。
絵画を幼少より日展画家の(故)川村行雄氏に師事。俳画を華道彩生会家元(故)村松一平氏に師事。俳画の描法をもとに、少女、猫等を独自のやさしいタッチで描いている。個展多数。

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 と き:月2回 第2、4金曜日 午後1時〜3時
 会 費:1回 2,250円(3ヶ月分前納制)
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