海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
ちょっとおじゃまします
 日中は静寂さを感じ、夜は雨ガエルの鳴き声が聞こえるという適度な自然の中に伊藤製作所はある。
 伊藤さんは、陶芸窯を製造するメーカーの社長である。主力商品は、電気窯だ。伊藤社長の手がける窯は日本一と聞きつけ、日本全国から、実績のある作家から駆け出しの若手作家までもが、次々と訪ねてくる。作家の心を、わしづかみにする人である。
 ちまたでは、サイクロン掃除機が話題を呼んでいるが、その原理からヒントを得て、サイクロン窯を開発した。このサイクロン窯は、伊藤社長の強い思いが凝縮されたものだ。燃費は従来の窯よりも八分の一に削減される。冒険心がスパイスとなって生まれた、最先端を走っているエコ窯ともいえる。現在、20基が売約済みだという。
 伊藤社長は、「これは商売じゃないから…」と、自分のもっている技術や知識を時間を惜しまず、実演して教える。作家は、その中からヒントを得て、作陶に励む。窯のもつ癖も教える。釉薬の調合も教える。焼き物が自然に焼ける本来の姿を教える。何故、ここまで…と思う私だが、職人仕事の良心なのだろうか。この時、伊藤社長は新たな充実感を覚えるのだという。
 陶芸窯に魅せられて、26年。鯉江良二氏、吉川正道氏の窯も伊藤社長の手がけたものだ。受賞する作家の多くが、伊藤社長の手がけた窯から作品を生み出している。ある若手作家は文部大臣賞を受賞した、と喜んで報告してきたと話した。伊藤社長の工房には、これらの作家から贈られた作品が並べられている。この工房は、作家たちのとまり木のような存在となっている。説得力ある説明、分かりやすい分析に作家たちが、今後を伊藤社長の窯に託すのもうなずける。
 取材した翌日には福井へ穴窯を焚きに行き、週末には静岡、長野、東京へと、日本全国を奔走している。
(赤井伸衣)