海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
ちょっとおじゃまします
 4 畳程の工房に座ると、磯村さんと私は隣同士という窮屈な距離感となった。磯村さんのあまりの居心地の悪さを私は感じ、磯村さんの友人に助けを求めた。途中から、友人参加のおしゃべりとなった。気心の知れた仲間となれば、磯村さんはこの居心地の悪さから解放され、少しだけ饒舌になってくれた。
 拍水窯は彫り担当の磯村さんと、ろくろ担当の兄の分業で1つの急須を生み出す。弟は兄を頼りにしている。兄の作った急須に弟が、菊や桜などの植物、家紋や幾何学模様などの彫りを入れていく。デザインは4、5年おきに変わる。こうしなければと決めるのではなく、その時々にいいなぁと思ったもの、好きになったものに一喜一憂し、彫っていくという。「恥をかいて仕事を覚えろ」──こんな言葉を心に響かせながら、今まで走り続けてきた。その気持ちは今後も変わらないという。
 磯村さんの彫りには、桜が心なし多いような気がする。なぜならば、中学生の頃にいつも心躍らせていたからだ。磯村さんの初恋は中学1年生の頃。季節は春。中学校の坂は桜満開の桜並木だった。淡い恋は悲しい結末となってしまったが、今でも素敵な思い出だ。初恋の相手に夢中のあまり、当時の担任の先生に恋愛相談をしたという。友人と私は口をそろえて「バカなー」と、大笑い。この話は時効となってしまった。年齢を重ねても、何度聞いても微笑ましい。
 人付き合いがちょっぴり苦手。おしゃべりもちょっぴり苦手。今やらなくてはと、おしゃべりをするように心掛けている。弱い自分を自分流にトレーニングしている。急須を作っているからこそ、できることがある。急須を作っていることで、少しでも社会に影響を与えることができる。お茶の醍醐味とは、ゆったりと流れる時間を楽しむことと、磯村さんはいう。
 固定客ももった。義理堅く、定期的に訪ねてくれる人もいる。作品を気に入ってくれる喜び。それが、磯村さんの大きなエネルギーとなっている。だから、この仕事は辞められない!!という。
(赤井伸衣)