海外の旅この指とまれちょっとおじゃまします元気のでてくることばたち
ちょっとおじゃまします
 父はロクロ引きの職人。弟は急須職人。そして、弟の造った急須に加飾を入れる職人が吉川壺堂さんだ。
 将来、安泰のサラリーマン人生を投げ打って、加飾の世界に飛び込んだ。そして、40数年が過ぎた。「やりがいがあって、今まで、やってきてよかったなぁ」と、いう。吉川さんの加飾は、気の遠くなりそうな作業の連続だ。急須というキャンバスに小躍りする気持ちで繊細に図柄や文字を彫っていく。吉川さんは、その過程をすごく楽しんでいる。
 単純に純粋に彫ってみたかったから、彫ってみた。素敵だなぁ、きれいだなぁと思ったものを素直に彫ってみたくなる。何をここに彫ってみようかというイメージは、すぐに湧く。そして、手が動く。この絵や文字は似合うのだろうかと、迷うこともない。今までの経験から、これなら確実にいけるという自信があるからだ。少し華やかな彫りになってしまったかなぁ‥‥と感じてしまうこともあるが、とびっきり高価な加飾は、よく売れる。「高価なものにニーズがあるんだよ。これぞ!!メイド・イン・ジャパン」と、吉川さんの鼻息は荒い。
 吉川さんの加飾のバリエーションは豊富だ。歌舞伎、安藤広重の東海道五十三次、小倉百人一首、七福神と、何んでも彫ってしまう。今でも、誰にもまねのできない加飾を吉川さんは追求し続けている。まだまだ、加飾の高度化、進歩の余地は十分に期待できるという。細かすぎて、丁寧すぎる作業には驚かされてしまう。理解不能のお手上げの私に、吉川さんの加飾技術は常滑特有なんだよと、教えてくれる。常滑の緻密な粒子の土に彫っているから、細かなデザインも彫れるのだという。
 吉川さんの加飾は中国や台湾の富裕層に専ら人気だ。今年も中国で個展を予定している。加飾が売れることは嬉しいけれど、生真面目に加飾業界の今後を考えたら、やはり、後継者の育成が一番の悩みの種という。加飾の後継者育成事業を現在も継続中だ。若手が育たないんだよねと、ため息が何度も聞こえた。
 休日には自転車をこよなく愛し、卓球、ゴルフ、野球に釣りと、アウトドア感いっぱいである。週末は、平日を加飾に没頭する吉川さんにとって大事なスパイスとして欠かせないようだ。
(赤井伸衣)